『カルト村で生まれました』の皮肉。

コミックエッセイの良いところは、自分が体験できないような生き方をマンガ形式で楽しめる・追体験できる点だと思う。

だから、そこに描かれている生き方が自分自身の日常から離れていればいるほど、得られる読書体験は満足度の高いものになる。

今回読んだ『カルト村で生まれました』は、そういう意味では突出している。いくつもあるコミックエッセイの中でも、内容が相当にぶっ飛んでいるからだ。

何しろ、題材は「カルト村」である。

そして、そんな場所にちょっと遊びに行った程度ではなく、そこで生まれ育ったという話なのである。

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『カルト村で生まれました』概要

本書は、日本の各地に点在している「カルト村」のひとつで生まれ育った著者の話である。

「カルト村」の詳細は、Amazon のレビューでも見てもらえれば実際の名前が分かると思うが、ある思想に共感した人たちが集まって作った村のことを指している。

その思想とは、「私的な所有」の概念を否定するというもの。つまり、自分個人のモノというのは基本的に無く、日用品から洋服・下着まで全てを他人(共同生活者)と共有する。

(なので、カルトといっても恐ろしげな教義を信奉しているわけではなく、教祖に絶対服従しているわけでもない。ただ、日本の一般的なそれとはかなり違う生活を彼らはしている。)

現代日本にあって、私的財産を否定する思想を良しとする人が、日本各地に村を作って生活を営めるほど存在しているというのがビックリだが、まぁ思想は自由なのでそれは良い。

さてこちらのカルト村の人々。Wikipedia 情報によると、あまり内情を語りたがらない人たちらしい。そこはプライベートな部分でもあるので、当然といえば当然かもしれない。でも、そのためにカルト村の実態は分からない部分が多かったはずだ。

その点、本書は非常に高品質な「潜入レポート」となっている。何しろ、そこで生まれて育った1人の女性の話だから、リアルな話が満載である。ただのマンガのようでいて、実はルポルタージュとして大きな社会学的価値があると私は思う。

思想で人間の所有欲を抑えられるのか

著者の両親は、大人になるまではごく一般的な日本社会で育ち、その後、自分の意思でカルト村に入っていったという。そういう人たちは良いだろう。本人の自由だから好きにしたら良い。

でも、自分が生まれる環境を選べたわけではない「子供たち」のほうは、かなり可哀そうだと思える。何がって、たとえばカルト村の人たちは、一日2食を基本としている(少なくとも著者が育った当時は)。だから育ちざかりの子どもと言えども、朝ご飯を食べさせてもらえない。当然、毎日お腹がすく。

また、子供たちは金銭を持たせてもらえない(カルト村が私有財産を否定しているから)。なので、小学校高学年になっても金銭感覚が微妙に発達していない。

さらに、子供たちは原則として親とは異なる村で生活しなければならないので、少年・少女時代を親に甘えられずに過ごすことになる・・・(まだ小さい著者が「親と一緒に過ごせないなら生まれてこなければよかった。私は絶対に子どもを産まない」と決意するという、悲しいシーンさえある。)

そんな調子で、一風変わった生活規範と思想のもとに、子どもたちは一般の人から見れば大分不自由な生活を強いられてしまう。

さて、そのような環境の中で著者はどのように育ったか? カルト村の人々が信奉する思想にしっかりと染まり、「モノは一人占め」がベースの資本主義社会に対し、アンチテーゼを唱えるようになったのだろうか。

答えは全く否であった。本書に描かれているように、少女時代の著者はムラの中で「厨房の人参を盗む」「世話係の部屋のお菓子を盗む」等々の悪事を繰り返している。

ほとんどが空腹に耐えかねての行為だが、結局は思想でキレイゴトを言っても、人の根源的な「自分のモノにしたい」という欲求を抑えることはできない。。。

カルト村に対するそんな皮肉を、このコミックエッセイは語っているように私は思う。

おわりに

この記事では、カルト村の否定的な側面ばかりを取り上げた。しかしながら、この物語自体はというと、必ずしもそうではない。むしろ「幼少期の辛くもあったが楽しこともあった著者の思い出」というトーンで全体がまとめられている。

私としても、このカルトについて全面的に反対する気分でもない。たとえば本書のエピローグでは、大人になった著者が、季節の移ろいを敏感に察知し、梅干し・梅酒・らっきょう・ジャム・ケーキ等を手作りするという場面がある。そのように何でも手作りで作れてしまうのは、カルト村に長くいて、自然との共生のような生活を続けていたからこそだという。

現代の一般社会のどのくらいの人が、漬物やジャム・ケーキを手作りで作れるだろうか? 幼い頃から農業や畜産にも携わり、食べ物の生産現場を目の当たりにしながら育っていくことができるという面では、カルト村も悪くない場所なんじゃないか・・・と思えてくる。

カルト村には光と闇がある。功と罪がある。一読していただければ、この感覚を味わっていただけるのではないかと思う。

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