売主の担保責任は暗記不要!最強の覚え方は「理解」すること。理想形から民法の規定を導く考え方をシェアします

記憶女性

「売主の担保責任って、難し過ぎる…」

「売主の担保責任がどうしてそういう規定になるのか、理解できない」

「売主の担保責任を暗記しなくても良い方法があるって本当?」

売主の担保責任といえば、民法の勉強をしているときや宅建士試験の対策では必ず「暗記してください」と言われてしまいますよね。一覧表を見せられて覚えるように言われて、「ひぇ~~無理!」と思いながら頭に叩き込む。本当にしんどい作業です。

しかし、暗記に走ることには、私は明確に反対です。なぜって、暗記って、頑張ってやったとしてもすぐに忘れてしまうじゃないですか。仮にしばらくの間忘れなかったとしても、試験当日に忘れてしまうかもしれません。人間はコンピューターではありませんから、記憶力をあてにするのは間違っています。

ではどうすれば良いのかというと、理解すれば良いのです。人は一度理解してしまえば、忘れたくてもなかなか忘れません。頭の中で点と点がロジカルにつながると、それを切り離すのほうがむしろ難しい。

それに、理解した後なら少しくらい忘れてしまっても問題ありません。理解することは、ロジカルに考えて結論に至るプロセスが分かるということです。なので、結論そのものは忘れてしまっても、もう一度プロセスをたどっていつでも正しい結論を導くことができます。

理解は、暗記よりも頭を使いますが、得られるものは強固で、持続可能です。あなたが今後、学習の途上で「暗記すること」を求められたときは、逆の方法論である「理解すること」を意図的にやってみる、ということを私はおすすめしたいと思っています。

今回はそのケーススタディです。「売主の担保責任を理解すること」にこだわりぬいてみましょう! テキストにこんな表がよく載っています。

買主 解除 損害賠償 代金減額 期間制限
全部他人物 善意 × 無制限
悪意 × × 無制限
一部他人物 善意 1年
悪意 × × 1年
数量不足 善意 1年
悪意 × × ×
用益権付着 善意 × 1年
悪意 × × ×
担保権実行 善意 × 無制限
悪意 × 無制限
隠れた瑕疵 善意* × 1年
悪意* × × ×

こんなの暗記するなんて無理!ですよね、普通。テキストには、読者に理解してもらうための若干の解説はあるのですが、最終的には「こことこことここは暗記しましょう」となっていることがほとんどです。理解をさせるための理由づけが、十分でないことが多いんですね。紙幅の都合上、仕方ないのかもしれません。

当ブログは、幸い紙幅には縛られません。そこで、今回は売主の担保責任について徹底的に「なぜそういう規定になるのか?」を追及し、暗記すべき点を最小化し、この一覧表を完全に理解するための方策を練ってみようと思います。

記事を読み進めていくと、あなたは次のメリットを得ることができます。

  • 売主の担保責任の根底にある「原則」が分かる
  • 売主の担保責任の「理想形」から実際の規定を導き出すという考え方が分かる
  • 売主の担保責任の暗記が不要になる

この記事はかなりの長文記事になっています。そのため、読み終えるには少し時間がかかるはずです。ですが、売主の担保責任をスッキリ理解したいと思っている方には、きっと得るものがあると思います。休憩を入れつつ、ぜひ最後まで読んでいただければと思います。

実際に、この記事を読んだ方から「役に立った!」というコメントをいくつもいただきました。ありがとうございます![コメントを見る]

以下の内容は、私独自の考え方も多く混じっているので、法律の専門家から見て妥当な議論になっているとは限りません。あくまでこう考えれば辻褄が合うというレベルで書いています。ご了承くださいm(_ _)m

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売主の担保責任って何? 原則を理解しよう

売主の担保責任とは、何なのでしょうか。それは、売主と買主が何かのモノ(目的物)を売買した場合において、もし目的物に何らかの不具合・不都合があったら、買主は売主に対し「責任とってよ!」と請求できますよ、ということです。一種の保障の制度です。

民法は、この保障制度を6つのパターン(全部他人物、一部他人物、etc.)として規定しています。そして、売主の責任の取り方は、パターンごとに微妙に異なる形で規定されているため、理解したり記憶したりすることが困難になっています。

ですが、6つのパターンには、その根底を流れる原理原則があります。特別の理由が無ければ、この原則に従った責任の取り方となり、特別の理由があるときのみ、この原則から外れていく、という仕組みになっているんです。

その原則とは、次のものです。

  • 「解除」と「損害賠償」が原則
  • 善意の買主への保護は最大限、悪意の買主への保護は最小限
  • 期間制限は1年が原則

1つずつ解説します。

「解除」と「損害賠償」が原則

売買契約においては、売主は譲り渡した目的物相当の対価を受け取り、買主は支払った対価に相当する目的物を受け取ります。契約においては、当事者のどちらかが一方的に得をしたり損をしたりするのではなく、バランスのとれた取引がなされるべきです。

このバランスが崩れてしまい、買主が一方的に不利になってしまっているときに、売主の担保責任が発生します。買主が売主に対して請求できることとしては、次の3つがありえます。

解除
契約を取りやめてお金を返してもらう
損害賠償
損害を穴埋めしてもらう
代金減額
代金を減額してもらう

このうち、民法は「解除」と「損害賠償」を売主の責任の取り方の原則としており、代金減額をいったん除外しています。これはなぜかと言うと、「代金減額」はどのくらい代金を減らせばいいのか、分かりにくいところがあるからです。

たとえば、ある人が土地を購入したところ、腹立たしいことに他人の地上権がついていたとしましょう。これでは自分の土地として使えないので、「代金減額」を請求しようと思ったとします。でも、一体いくらくらい減らせばよいのでしょうか。妥当な額は誰にも決めることができませんよね。ゆえに、このような方法は原則的な方法としては除外されています。

「善意の買主」の保護は最大限、「悪意の買主」の保護は最小限

原則として、「善意の買主」の保護は最大限はかってやります。これに対し、「悪意の買主」の保護は最小限にします。

善意の買主は、契約の際、目的物に不具合・不都合があるなんて知らされていません。なので、承知していない不具合・不都合で買主がダメージを受けた場合は、最大限、法律で保護してやるべきです。

したがって、善意の買主に対しては解除・損害賠償の両方を認めることになります。どちらか一方だけを認めるとかいうことは、通常はしません。

一方、悪意の買主は、目的物に不具合・不都合があることを承知の上で取引に入ります。とすれば、承知していた不具合・不都合から生じたダメージについては自己責任です。わざわざ法律で保護してやる必要はありません。

したがって、悪意の買主に対しては、解除も損害賠償もともに認めないというのが通常です。

期間制限は1年が原則

売主の担保責任が発生するときは、買主は売主に対して「責任取ってよ!」と言えるわけですが、それを未来永劫、永遠に主張できるとすると、売主は取引後いつまでたっても落ち着きません。いつなんどき、買主から「不具合発見!」と言われるか分からないからです。

これでは、世の中の売主はモノを売ろうとは思わなくなってしまいます。そうすると経済活動が縮小してしまい、社会全体の発展が妨げられてしまうでしょう。

そうならないように、民法は期間制限を設けています。買主が売主の責任を追求できるのは、一定の期間内だけだよ、ということです。基本は、分かりやすく「1年」となっています。ある起算点から1年を過ぎると、買主はもう売主に対して責任を追及することはできません。

起算点がいつなのかという議論については、この記事では省略しています。難しい話ではないので、お手持ちのテキスト等を参照してもらえれば十分かと思います。

以上、3つの原則を見てきました。これらの原則は不利益を被った買主を妥当な範囲で保護するという当たり前の内容ですので、すぐ理解してもらえるものと思います。

売主の担保責任の「理想形」

さて、上記の原則を守りつらぬいたとすると、売主の担保責任はどのような形になるでしょうか? いわば売主の担保責任の「理想形」ですが、次のような形になると理解してください。

まずは買主が善意の場合の理想形です。

買主 解除 損害賠償 代金減額 期間制限
理想形 善意 × 1年

善意の買主は最大限保護されるべきなので、「解除」と「損害賠償」を請求することができます。ただし、「代金減額」は金額算出が難しいので、できません。そして、期間制限は1年です。

次に、買主が悪意の場合の理想形です。

買主 解除 損害賠償 代金減額 期間制限
理想形 悪意 × × × -(1年)

悪意の買主を保護する理由は無いので、「解除」も「損害賠償」も認められませんし、当然「代金減額」もだめです。期間制限については、悪意の買主からは解除や損害賠償が一切請求できないとすると、考える必要がありません。なので、「-」としています。

(ただし、特に理由があるときは請求できることがあり、その場合は期間制限の原則に従って1年となります。その意味で「(1年)」と記載しています。)

以上、買主が善意の場合と悪意の場合の「理想形」をそれぞれ見てきました。これは、先に見た「3つの原則」を、買主善意と買主悪意の場合とに分けて、表に落とし込んだだけです。特に難しくはないと思います。なぜこうなるのか分からない場合は、前の節に戻って考えてみてください。

さて、実際の民法では、この理想形から少しずつ離れていく形で、売主の担保責任が定められています。

なぜ理想形そのままではないのかというと、理由は色々なものがあります。「理想形から離れていく理由」をしっかりと理解していれば、いつでもこの理想形から実際の規定を導くことができます。

理由付けの検討に入りたいところですが、その前に、民法の規定を少し整理して、理解しやすい形にしておきたいと思います。次節で検討します。

6つの担保責任を3つにグループ化

民法は、売主の担保責任を6つのケースに分けて規定しています。

  • 全部他人物
  • 一部他人物
  • 数量不足
  • 用益権付着
  • 担保権実行
  • 隠れた瑕疵

民法ではこの順で規定されているので、民法や宅建士のテキストでもこの順で紹介され、解説されるのが通例です。しかしながら、この順で学習していくよりも、似た概念どうしをまとめておき、それらの異同を比較しながら理解するほうが実は効率的です。

そこで、この記事では6つのケースを、概念的に近いもの2つずつで組み合わせ、3つのグループにします。そうすると、そのグループ内では、○×や期間制限がほぼ連動しますので、記憶したり理解したりしやすくなります。

グループ1:目的物が不良品

「用益権付着」と「隠れた瑕疵」をひとつのグループにします。「どこが概念的に近いんだ?」と思われたかもしれません。私の考えでは、この2つのケースはどちらも目的物が不良品であるという共通点があるんです。

用益権付着は、土地に地上権などの権利がついているので、他人が利用できてしまうという点で、不良品です。

「隠れた瑕疵」はそのまんまですが、隠れた欠陥があるので不良品です。

どちらも不良品に関する規定なので、1つのグループにしておきます。なお、後で述べるように、この「目的物が不良品」のグループが、最も理想形に近い形で規定されています。

グループ2:目的物が一部不足

「一部他人物」と「数量不足」をひとつのグループにします。というのも、この2つのケースはどちらも目的物が一部不足しているという点で共通しているからです。

「一部他人物」は一部が他人のものなので、不足しています。

「数量不足」はそのままです。一部、不足しています。

一部不足しているという点で共通する規定なので、1つのグループにしておきます。なお、後で述べるように、この「目的物が一部不足」のグループは、代金減額が認められるという点で理想形から離れていきます。

グループ3:目的物が全部不足

「全部他人物」と「担保権実行」をひとつのグループにします。どのあたりが共通しているでしょうか? 私の考えでは、この2つのケースはどちらも目的物が全部不足しているという点で共通しています。

「全部他人物」の場合は、はじめから売主のものでないものを売り渡しているので、最終的に買主のものにはならないときがあり、そのとき「全部不足」します。

「担保権実行」の場合は、売買契約の時点では買主は所有権を手に入れられるのですが、担保権を実行されると所有権を失いますので、そのとき「全部不足」します。

「全部不足」という点で共通しているので、1つのグループにまとめます。なお、後で述べるように、この「目的物が全部不足」のグループは、期間制限がなくなってしまう点で理想形から離れていきます。

なお、「全部不足」という言い方はちょっと普通の言い方ではないので、違和感をもたれかもしれません。先の「一部不足」と対照させるために、わざとこういう言い方にしています。あまり気にしないでください。

さて、ここまで前置きとして「3つの原則」から導いた「理想形」と、「3つのグループ」について考えてきました。特に難しい話は無かったと思います。次節からが本番です。

売主の担保責任を理解する(1)買主が善意の場合

これは一般のテキストではあまり見られない解説の順序になると思いますが、売主の担保責任は、まずは善意のパターンのみを全て理解して、その後に悪意のパターンのみを考えるほうが理解しやすいです。この節では、善意のパターンだけを見て行きましょう。

復習ですが、善意の場合の理想形は次のようなものでした。

買主 解除 損害賠償 代金減額 期間制限
理想形 善意 × 1年

特に理由が無ければ、買主善意の場合の売主の担保責任は、この理想形に一致するはずです。何らかの理由があれば、この理想形から外れていきます。

では、民法が実際にはどのような形で担保責任を規定しているのか、理想形と違う場合はどういう理由で違っているのか、それらを詳しく見て行きましょう。

グループ1:目的物が不良品

グループ1は、目的物が不良品である2つの場合、すなわち「用益権付着」と「隠れた瑕疵」です。このグループは理想形にかなり近いです。

買主 解除 損害賠償 代金減額 期間制限
用益権付着 善意 × 1年
隠れた瑕疵 善意* × 1年

まず「用益権付着」のところは、理想形そのままです。何も覚えることはありません。

次に「隠れた瑕疵」のところを見ましょう。こちらは、9割がた理想形なのですが、「善意」の横に「*」と書いてあります。ここが理想形と違います。

実は、隠れた瑕疵がある場合、買主が売主の責任を追及するには、単に善意であるだけでなく、無過失であることが要求されています。他のケースに比べて、やや買主に厳しい条件が課されているのです。通常の「善意」よりも狭い範囲でしか買主は保護されないため「*」と書いています。

では、買主が善意であるだけでなく無過失であることまで要求されているのはなぜでしょうか。その理由を考えることが大事です。

隠れた瑕疵というのは、色々なものが有り得ます。綿密に調べなければ分からないものから、ちょっと調べたら分かるものまで様々です。

ここで、ちょっと調べたら分かる程度のことまで、単に知らなかったというだけで買主が売主に責任を追及できると仮定しましょう。そんなことになっていると、売主はもう怖くてモノを売れません。売主自身は、「少し調べれば分かるようなキズ・欠陥の有無については、買主も当然購入前に調査するだろう」と思って取引に入るからです。

なので、民法は、ちょっと調べたら分かる程度の瑕疵については、その責任は買主にあることにしました。つまり、単に知らなかった(善意)というだけでは、売主への責任追及はできません。ある程度自分でも調べた(無過失)けど瑕疵があった、という事態になって初めて、売主の責任を追及できる、ということにしたのです。

言い換えると、「買主は自分の希望で購入するのだから、ちょっと調べたらわかる程度の瑕疵の有無は、自分で調べなさい」という姿勢を民法はとっていることになります。

以上の議論で、「*」のところは理解できたと思います。

グループ2:目的物が一部不足

次に、目的物が一部不足の2つのケース、すなわち「一部他人物」と「数量不足」の場合を見ましょう。

買主 解除 損害賠償 代金減額 期間制限
一部他人物 善意 1年
数量不足 善意 1年

こちらもかなり理想形に近いですが、異なる点は、代金減額が認められていることです。「一部他人物」の場合も、「数量不足」の場合も、代金減額が認められています。なぜなのでしょうか。

それは「買主が入手できなかった部分がどの程度なのかが、具体的に分かる」ことが関係しています。たとえば土地の売買なら、何㎡中 何㎡が他人物だった、または不足していたということは、調べればすぐに分かります。

そして不足している量が具体的にわかりさえすれば、その不足分に対応する金額を算出することができます。金額を算出できるのであれば、その分の代金減額の請求を買主に認めることは、「買主の保護を最大化する」という原則にもかないます。積極的に認めていくべきでしょう。

そういうわけで、この「グループ2:目的物が一部不足」では、理想形にプラスαで代金減額請求が認められています。

グループ3:目的物が全部不足

目的物が全部不足する2つのケース、すなわち「全部他人物」と「担保権実行」を見て行きます。

買主 解除 損害賠償 代金減額 期間制限
全部他人物 善意 × 無制限
担保権実行 善意 × 無制限

こちらもほぼ理想形に近いですね。理想形と違う点は、期間の制限が無いことです。一体どうして、「全部不足」の場合は期間制限がなくなってしまうのでしょうか。

ヒントは、「全部不足」においては、他のケースと違い、買主の受ける被害があまりに大きいというところにあります。

「全部他人物」のケースは、他人物であるとは知らされぬまま売買契約を結び、後になって他人物だと分かり、しかも結局手に入らなかったというケースです。

「担保権実行」の場合は、担保権がついていることを知らずに買ってしまい、その後担保権者が担保権を実行し、買主は手に入った所有権を担保権者にとられてしまうというケースです。

どちらの場合も、買ったはずのものが一切手元に残らないという点で、結果が重大すぎます。そして、その責任は基本的に売主のほうにあります。

とすれば、期間に制限を設けていた理由、つまり「買主が売主に対し責任を問える期間を制限して売主を安心させよう」という要請に応える必要は、無くなります。売主の安心よりも、買主の保護を優先すべきだからです。そこで、民法は「全部他人物」と「担保権実行」の場合には期間制限を除外して、契約後は期間無制限で担保責任を認めることにしました。

ということで、「全部不足」の場合の期間無制限については、「所有権が最終的に買主の手に入らないという結果の重大性」からの帰結だと理解しましょう。

売主の担保責任を理解する(2)買主が悪意の場合

続いて、買主が悪意の場合を考えていきます。悪意の場合は、理想形からの逸脱がいっそう多くなりますので、理由づけをより細やかに検討することが重要になってきます。

売主の担保責任について、買主が悪意の場合の理想形を復習しておきましょう。

買主 解除 損害賠償 代金減額 期間制限
理想形 悪意 × × × -(1年)

特に理由が無ければ、買主悪意の場合の売主の担保責任はこの理想形に一致するはずです。理由のあるときは、この理想形から離れていきます。

グループ1:目的物が不良品

まずグループ1の検討ですが、ほどんど理想形に近いです。

買主 解除 損害賠償 代金減額 期間制限
用益権付着 悪意 × × ×
隠れた瑕疵 悪意* × × ×

「用益権付着」の場合は理想形と完全に一致しています。

「隠れた瑕疵」のところは、1か所だけ理想形から外れています。その場所は、買主の善意悪意の部分です。「悪意」の横に「*」を置いています。これは「善意有過失」の場合を含むことを示しています。

どういうことかというと、先述のように、隠れた瑕疵・買主善意のケースでは、買主は善意であるだけでなく無過失であることまで要求されていました。通常の「善意」よりも狭い範囲でしか買主は保護されない、ということでしたよね。

では「善意で有過失」の場合はどうなるかというと、悪意の場合と同じ扱いになります。つまり、上の表の隠れた瑕疵の「悪意」は、「善意有過失」の場合を含むと考えてください。通常の「悪意」よりも意味が広いため、「*」を置いています。

言い換えると、隠れた瑕疵があっても買主が「悪意または善意有過失」の場合には、保護されないということです。ここまで、特に難しいことはないかと思います。

グループ2:目的物が一部不足

目的物が一部不足のケースを見てみましょう。

買主 解除 損害賠償 代金減額 期間制限
一部他人物 悪意 × × 1年
数量不足 悪意 × × ×

ほぼ理想形と同じですが、「一部他人物」のときだけ、代金減額が認められることになっています。これはなぜでしょうか。一部他人物の場合で、かつ買主が悪意の場合というのを、具体例でイメージしてみましょう。

土地の売買契約において、売主が「この土地の一部は他人のものなんだけど、後でその部分も取得してちゃんと売り渡しますよ」という条件で売買契約を結ぶのが、その例です。買主は、一部が他人のものであることを知らされていますが(悪意)、それが後でちゃんと手に入ると思って取引に入ります。

ところが、後になって、その部分が手に入らないという状況になってしまうわけです。こういう状況になると、売主が得た代金に対して、買主が得たモノは不当に少ないことになってしまいます。

このアンバランスを解消するため、民法は「一部他人物」のときの悪意の買主に代金減額請求を認めています。

他方、「数量不足」の場合はどうでしょうか。これは、数量が足りていない(たとえば契約書上100㎡の土地と記載しているところ、実際は80㎡しかない)ことを買主は何らかの形で知っていて(悪意)、それでもいいと思ってその契約内容で取引したわけです。

とすると、後になって「やっぱ少ないよ!代金減額してよ!」と買主が言いだすのは筋違いです。買主は後で不足分が手に入ると期待していたわけではないはずですし、他に汲むべき事情もありません。そういうわけで、「数量不足」の場合には代金減額請求を認める必要が無いのです。

グループ3:目的物が全部不足

最後に、目的物が全部不足の場合です。このグループが最も理想形から離れています。

買主 解除 損害賠償 代金減額 期間制限
全部他人物 悪意 × × 無制限
担保権実行 悪意 × 無制限

理想形とは全く違う形式になっているように見えますが、冷静に、順序立てて、そうなった理由を考察していきましょう。

期間制限について

まず、期間無制限のところは善意のところと同じです。結果が重大すぎるので、期間制限を撤廃しています。

解除について

次に、「解除」のところを考えます。理想形に従えば、買主悪意であれば解除は認められないはずですが、「全部他人物」「担保権実行」の場合はともに解除請求が認められています。これはどういうことなのでしょうか。

ここで注目したいのは、「全部他人物」の場合も、「担保権実行」の場合も、買主は所有権が最終的に手に入っていないのに、売主は代金丸儲けというものすごい不均衡が起きていることです。

理想形に従うだけだと、解除請求はできないことになるので、この不均衡を解消できません。そのため民法は理想形から離れて、解除を両方の場合で認めています。解除すれば、買主は代金返還請求することができ、不均衡をリセットすることができます。

でも、買主は悪意なんだから、そこまで認めてやる必要はないのでは?と思う人もいるかもしれません。しかしながら、「全部他人物」や「担保権実行」における悪意買主は、あまり責めてやるのも可哀そうなのです。

他人物売買・買主悪意のシーンを思い浮かべてみましょう。この場合、売主のほうから「今回の目的物は他人物ですが、必ず私が取得してあなたに引き渡しますよ」と言って取引に入るのです。その後、その言葉は裏切られるのですが、売主の言葉を信じた買主にはそれほど落ち度があるとも言えません。

また、担保権実行・買主悪意のシーンも考えてみましょう。はじめ売主は「この目的物には担保権がついてますけど、担保権が実行されないように私が責任を持ちます、大丈夫ですよ」と言って買主に所有権を取得させます。その後、その言葉は裏切られ、担保権が実行されてしまい、買主が所有権を失う、という話ですから、こちらも買主にはあまり落ち度が無いのです。

このように、「全部他人物」「担保権実行」の場合の悪意買主は、やや不用意ではありますが、それほど責められるわけでもありません。そのことを頭に入れておくと、解除が認められることに納得がいきやすいと思います。

損害賠償について

最後に、損害賠償です。「全部他人物」に関しては、理想形通り損害賠償請求は認められていません。その一方、「担保権実行」の場合には損害賠償請求が認められています。

ちなみに、買主悪意の場合に損害賠償が認められるのは、この「担保権実行」の場合だけです。民法はこのケースをよほど特別扱いしているようです。一体どうしてなのでしょうか。

それは、一度所有権が手に入ったのに、それを後になって丸ごと剥奪されるというところに理由があります。

比較のために、まず「全部他人物」の場合を考えてみましょう。「全部他人物」では、買主は始めから完全な所有権を手に入れていませんし、買主もそれを認識した上で売買契約しています。なので契約後、買主に損害が起きないようにする責任は、基本的に買主側にあると考えられ、売主への損害賠償請求を認めてやる必要はありません。

それとは対照的に、「担保権実行」の場合は、担保権の実行に先立って買主は一度完全な所有権を手に入れています。そして、売主は「担保権の実行なんてされませんから、大丈夫です」と言っているので、買主はそれを信用して、その目的物の使用収益を開始することになります。たとえば、購入した土地の上に住宅を建てて住んだりするわけです。

その後、ある日突然担保権が実行され、目的物の所有権を丸ごと失います。土地に家を建てて住んでいたとしても、もう住めなくなるかもしれません。一度手に入ったと思っていたのに、それを覆されるというのはかなりの大ごとです。損害は計り知れない大きさになります。

そういうわけで、民法は、「担保権実行」の場合には買主が悪意でも損害賠償を認めよう、ということにしたのです。

この記事のまとめ

以上で全てのパターンを確認してきました。今まで意味不明だった売主の担保責任が、スッと頭に入ってきたのではないでしょうか? この記事のポイントをまとめておきます。

  • 売主の担保責任の原則は、「解除と損害賠償」「善意買主の保護は最大限、悪意買主の保護は最小限」「期間制限は1年」である。
  • 売主の担保責任を理解する上で重要なことは、「原則を貫いた理想形を想定できる」「理想形を少し逸脱したものが実際の民法の規定になっている」という視点である。
  • 理想形から逸脱する理由をおさえておけば、売主の担保責任を暗記していなくても、いつでも理想形から民法の規定を導くことができる

最後に一覧表を示しておきます。まず、買主善意の場合。

買主 解除 損害賠償請求 代金減額 期間
グループ1:
目的物が
欠陥品
用益権付着 善意 × 1年
隠れた瑕疵 善意* × 1年
グループ2:
目的物が
一部不足
一部他人物 善意 1年
数量不足 善意 1年
グループ3:
目的物が
全部不足
全部他人物 善意 × 無制限
担保権実行 善意 × 無制限

次に、買主悪意の場合です。

買主 解除 損害賠償請求 代金減額 期間
グループ1:
目的物が
欠陥品
用益権付着 悪意 × × ×
隠れた瑕疵 悪意* × × ×
グループ2:
目的物が
一部不足
一部他人物 悪意 × × 1年
数量不足 悪意 × × ×
グループ3:
目的物が
全部不足
全部他人物 悪意 × × 無制限
担保権実行 悪意 × 無制限

もうお分かりの通り、赤字部分が「理想形から逸脱している箇所」を示しています。

ここまでの話の理解度テストをしてみましょう。表の赤字部分のひとつひとつについて、どういう理由で逸脱するに至ったのかを自分の言葉で言ってみてください。理由をすぐに言えたら、売主の担保責任の理解は完璧です!

以上、長くなりましたが、売主の担保責任を理解するための考え方をご説明しました。繰り返しになりますが、考え方が分かってしまえば、もう売主の担保責任の表を暗記する必要はありません。必要なときはいつでも理想形を思い浮かべ、正しい思考プロセスを経て○×を導いていただければと思います。

コメント

  1. 匿名 より:

    非常に参考になりました
    ありがとうございます

    • Kiryu Kiryu より:

      長文なのにお読みいただき、こちらこそありがとうございます!
      分かりにくい点等あれば、ご指摘ください。

  2. より:

    ありがとうございました。
    わかりやすいです。

    • Kiryu Kiryu より:

      わ、わかりやすいだなんて…!!(嬉泣)
      「あ」さん、ありがとうございます!

  3. はっさん より:

    これのおかげで本試験で1点取れました。ありがとうございます。

    • Kiryu Kiryu より:

      はっさんさん、本試験の受験お疲れ様でした!お役に立てたのなら私としても嬉しいです。
      今日はゆっくり休んで、良い夢を見てください~!

  4. うちだ より:

    今年度、宅建を受けるものです。

    非常にわかり易く、内容が理解できました。
    つまずいてた箇所だったので非常に、勉強になりました!
    有難う御座います。

    • Kiryu Kiryu より:

      うちださん、コメントいただき、ありがとうございます。
      お役に立てたようで嬉しいです!
      今年も10月が近づいてきていますね。
      ご健闘をお祈りしています!

  5. たつや より:

    宅建じゃなくて行政書士試験ですが、これを読んで民法で点取れるようになりました。

    • Kiryu Kiryu より:

      たつやさん、コメントありがとうございます!

      数年後には民法改正があり、担保責任の条文も改定されるようです。
      そうするとこの記事の内容も役立たないものになってしまいますので、今年のうちに行政書士に合格してしまいましょう!心より応援しています!