宅建試験に一発合格した宅建士杉山貴隆です。
今回は宅建試験の宅建業法科目にどんな問題が出るのかを見ていきます。具体的には近年の本試験に実際に出題された問題(過去問)を6つ取り上げて解答・解説を示します。
さらに私が実際に使っていた解答のコツ・考え方についても詳しくお伝えします。宅建業法を学習中の方にとってはきっと有益な情報が得られるはずです。ぜひ参考にしてみてください。
他方、宅建の勉強を始めて間もない人にとってはよくわからない内容も多いでしょう。そんな人は「ふーん、宅建業法科目ってこんな感じか」と思ってもらえればOKです。学習を始めてある程度時間が経ってから、また戻ってきてじっくり読んでみてください。
宅建業法科目の出題範囲
宅建試験の科目のひとつ「宅建業法」の出題範囲は次の通りです。
- 用語の定義
- 免許制度
- 宅地建物取引士制度
- 営業保証金
- 保証協会制度
- 媒介契約等の規制
- 重要事項の説明
- 37条書面(契約書)
- 8種制限
- 報酬
- 業務上の規制
- 監督・罰則等
- 住宅瑕疵担保履行法
上記の中から特に重要なテーマをピックアップして過去の本試験問題の具体例を見ていきます。なお私が今回お伝えしたい解答のコツは違和感に気づくことなのですが、そのことも以下で詳しく説明します。
宅建業法科目の問題例
宅建試験の過去問から宅建業法科目の問題例を見ていきましょう。
免許制度
免許制度に関する問題例として平成30年度宅建試験の問36を取り上げます。
宅地建物取引業の免許(以下この問において「免許」という。)に関する次の記述のうち、宅地建物取引業法の規定によれば、正しいものはどれか。
- 宅地建物取引業者Aが免許の更新の申請を行った場合において、免許の有効期間の満了の日までにその申請について処分がなされないときは、Aの従前の免許は、有効期間の満了によりその効力を失う。
- 甲県に事務所を設置する宅地建物取引業者B(甲県知事免許)が、乙県所在の宅地の売買の媒介をする場合、Bは国土交通大臣に免許換えの申請をしなければならない。
- 宅地建物取引業を営もうとする個人Cが、懲役の刑に処せられ、その刑の執行を終えた日から5年を経過しない場合、Cは免許を受けることができない。
- いずれも宅地建物取引士ではないDとEが宅地建物取引業者F社の取締役に就任した。Dが常勤、Eが非常勤である場合、F社はDについてのみ役員の変更を免許権者に届け出る必要がある。
選択肢ごとに解説します。
選択肢1は誤り。満了の日までに処分がなされないときは処分がなされるまでは効力が続きます。
選択肢2は誤り。免許換えをする必要があるかどうかは事務所の設置場所によってのみ決まります。取引対象の宅地がどこにあるかは関係しません。
選択肢3は正しい。この場合のCは免許の欠格要件に該当します。
選択肢4は誤り。役員の変更があったときは、その役員が常勤であるか非常勤であるかを問わず変更の届出を行う必要があります。
解答のコツと考え方を見ていきましょう。
まず選択肢1について。更新の申請を行ったのに満了の日までに処分がなされない(更新が終わらない)というのは行政側の都合ですよね。行政側の都合で有効期限が満了になって営業できなくなったら、宅建業者としてはたまったものではありません。
それに宅建業者に仲介を依頼したいと思っていた一般の人(お客さん)も依頼できずに困ってしまいます。こんなことが実際に起きているとは考えにくいので、選択肢1の「効力を失う」は誤りではないか?と推測できます。
このように「処分がなされなければ免許が効力を失う」と言われたときに「本当にそうだとすればずいぶんおかしな結果になりそうだ」とひっかかることが大切です。
選択肢2・選択肢4についても宅建業法の学習がある程度進んでいる人は「何か変だな?」とわずかな違和感を持つと思います。このひっかかりをうまくとらえることを意識すると誤りの選択肢を見つけやすくなります。
営業保証金
営業保証金に関する問題例として平成29年度宅建試験の問32を取り上げます。
宅地建物取引業法に規定する営業保証金に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
- 宅地建物取引業者は、主たる事務所を移転したことにより、その最寄りの供託所が変更となった場合において、金銭のみをもって営業保証金を供託しているときは、従前の供託所から営業保証金を取り戻した後、移転後の最寄りの供託所に供託しなければならない。
- 宅地建物取引業者は、事業の開始後新たに事務所を設置するため営業保証金を供託したときは、供託物受入れの記載のある供託書の写しを添附して、その旨を免許を受けた国土交通大臣又は都道府県知事に届け出なければならない。
- 宅地建物取引業者は、一部の事務所を廃止し営業保証金を取り戻そうとする場合には、供託した営業保証金につき還付を請求する権利を有する者に対し、6月以上の期間を定めて申し出るべき旨の公告をしなければならない。
- 宅地建物取引業者は、営業保証金の還付があったために営業保証金に不足が生じたときは、国土交通大臣又は都道府県知事から不足額を供託すべき旨の通知書の送付を受けた日から2週間以内に、不足額を供託しなければならない。
選択肢ごとに解説します。
選択肢1は誤り。主たる事務所の移転により最寄りの供託所が変更となった場合、金銭のみをもって営業保証金を供託しているときは供託金を新しい供託所に移すよう従前の供託所に対し請求しなければなりません(保管換えの請求)。
選択肢2は正しい。
選択肢3は正しい。
選択肢4は正しい。
解答のコツと考え方を見ていきましょう。まず選択肢1について。ここでもある程度勉強が進んでいる人は「あれ? 変じゃない?」とひっかかるはずです。
というのも営業保証金は1,000万円とか500万円とかの大金です。それを主たる事務所が移転したからといっていちいち取り戻して別の供託所に供託するというのは、かなりの手間ですよね。
そこは供託所間で内部的に処理してくれたほうが宅建業者として楽なのはもちろん、供託所としても事務作業や諸々のリスクが少なくて済みそうです。
以上のように考えると、選択肢1は誤りである可能性が高そうだと推測できます。実際、供託所間で内部的に処理するために「保管換え」という制度が用意されています。
誤りの選択肢には「何かおかしい」「これが本当だとしたらえらく手間暇がかかる結果になる」、そういうひっかかりがつきものです。小さな違和感でも見逃さないように意識しましょう。
保証協会制度
保証協会制度に関する問題例として令和元年度宅建試験の問33を取り上げます。
宅地建物取引業保証協会(以下この問において「保証協会」という。)に関する次の記述のうち、宅地建物取引業法の規定によれば、正しいものはどれか。
- 宅地建物取引業者で保証協会に加入した者は、その加入の日から2週間以内に、弁済業務保証金分担金を保証協会に納付しなければならない。
- 保証協会の社員となった宅地建物取引業者が、保証協会に加入する前に供託していた営業保証金を取り戻すときは、還付請求権者に対する公告をしなければならない。
- 保証協会の社員は、新たに事務所を設置したにもかかわらずその日から2週間以内に弁済業務保証金分担金を納付しなかったときは、保証協会の社員の地位を失う。
- 還付充当金の未納により保証協会の社員の地位を失った宅地建物取引業者は、その地位を失った日から2週間以内に弁済業務保証金を供託すれば、その地位を回復する。
選択肢ごとに解説します。
選択肢1は誤り。保証協会に加入する場合、加入しようとする日までに弁済業務保証金分担金を保証協会に納付しなければなりません。
選択肢2は誤り。保証協会の社員となった場合は営業保証金を取り戻すときの公告は不要です。
選択肢3は正しい。
選択肢4は誤り。この場合、保証協会の社員の地位を失った日から1週間以内に営業保証金を供託しなければなりません。なお営業保証金を供託しても保証協会の社員の地位は回復しません。
解答のコツと考え方を見ていきましょう。選択肢1について。保証協会の勉強がある程度進んでいれば、やはり一読して微妙な違和感をもつと思います。
というのも「保証協会に加入した者は2週間以内に弁済業務保証金分担金を納付する」って、本当にそうだとしたらずいぶん宅建業者に甘い制度設計ですよね? そんなに待ってくれるものでしょうか?
それに保証協会に加入した宅建業者は営業を開始できます。営業を開始するということは下手をすれば一般のお客さんに損害を与える可能性があるということです。
保証協会への加入後、まだ弁済業務保証金分担金を納めてもいないうちにお客さんに損害を与えるような事態が起きたら保証協会はどう対応すればいいのでしょうか。
弁済業務保証金分担金を受け取っていない以上、還付金は出せません。ゆえに一般のお客さんの損害は放置されることになり、保証協会は機能不全に陥ってしまいます。
こんな事態が起きるのはおかしいので、選択肢1は誤りで、実際は「加入日までに弁済業務保証金分担金を納付する」が正なのではいか、と推測を進めることになります。
選択肢2や4についても「もしその内容が正しかったらどんな結果になるのか」ということについて想像を巡らせてみてください。
重要事項説明(35条)
重要事項説明(35条)に関する問題例として令和元年度宅建試験の問28を取り上げます。
宅地建物取引業者が建物の貸借の媒介を行う場合における宅地建物取引業法第35条に規定する重要事項の説明に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。なお、説明の相手方は宅地建物取引業者ではないものとする。
- 当該建物が住宅の品質確保の促進等に関する法律第5条第1項に規定する住宅性能評価を受けた新築住宅であるときは、その旨を説明しなければならない。
- 当該建物が既存の建物であるときは、既存住宅に係る住宅の品質確保の促進等に関する法律第6条第3項に規定する建設住宅性能評価書の保存の状況について説明しなければならない。
- 当該建物が既存の建物である場合、石綿使用の有無の調査結果の記録がないときは、石綿使用の有無の調査を自ら実施し、その結果について説明しなければならない。
- 当該建物が建物の区分所有等に関する法律第2条第1項に規定する区分所有権の目的であるものであって、同条第3項に規定する専有部分の用途その他の利用の制限に関する規約の定めがあるときは、その内容を説明しなければならない。
選択肢ごとに解説します。
選択肢1は誤り。貸借の場合、住宅性能評価を受けた新築住宅である旨を説明する必要はありません。
選択肢2は誤り。貸借の場合、既存建物の建築及び維持保全の状況に関する書類の保存状況を説明する必要はありません。
選択肢3は誤り。石綿使用の有無の調査結果が記録されているときはその内容を説明する義務がありますが、記録がないときは説明や調査の義務はありません。
選択肢4は正しい。例えばペットの飼育の禁止やピアノの使用の禁止が定められているときはその内容を説明します。
解答のコツと考え方を見ていきましょう。まず問題文の冒頭から今回は「売買」ではなく「貸借」が問題になっているということをおさえる必要があります。その上で選択肢1を読むと「住宅性能評価」の話になっています。
ここで重要事項説明についてある程度学習が済んでいれば「住宅性能評価は新築建物の買主ならぜひ知りたいだろうな。でも部屋を借りるときに住宅性能評価のことを必ず説明してほしいと思う借主は果たしてどのくらいいるだろうと違和感を覚えるはずです。
同様に「売買においては説明必須だが貸借においては説明しなくてよい」とされている事項はいくつかあります。これは一般に売買よりも貸借においては取引金額が小さいため借主の保護の必要性も小さく、また実質的な説明の必要性もあまりないからだと考えられます。
選択肢1と2は上記の観点で誤りと判断していきます。
一方、選択肢3は売買と賃貸で話が変わるわけではありません。「果たして宅建業者が石綿使用の有無の調査を自ら実施する義務まで負うだろうか? それはいくらなんでも負担が大きいのでは?」という違和感を持てれば誤りだと判断できます。
37条書面
37条書面(契約書)に関する問題例として令和元年度宅建試験の問34を取り上げます。
宅地建物取引業法(以下この問において「法」という。)第37条の規定により交付すべき書面(以下この問において「37条書面」という。)に関する次の記述のうち、法の規定によれば、正しいものはどれか。
- 宅地建物取引業者が自ら売主として建物の売買を行う場合、当事者の債務の不履行を理由とする契約の解除に伴う損害賠償の額として売買代金の額の10分の2を超えない額を予定するときは、37条書面にその内容を記載しなくてよい。
- 宅地建物取引業者が既存住宅の売買の媒介を行う場合、37条書面に当該建物の構造耐力上主要な部分等の状況について当事者の双方が確認した事項を記載しなければならない。
- 宅地建物取引業者は、その媒介により売買契約を成立させた場合、当該宅地又は建物に係る租税その他の公課の負担に関する定めについて、37条書面にその内容を記載する必要はない。
- 宅地建物取引業者は、その媒介により契約を成立させ、37条書面を作成したときは、法第35条に規定する書面に記名押印した宅地建物取引士をして、37条書面に記名押印させなければならない。
選択肢ごとに解説します。
選択肢1は誤り。損害賠償額の定めがあるときは、37条書面に記載しなければなりません。このことは宅建業者が自ら売主であるか否かを問いません。また損害賠償額が売買代金の2割を超えるか否かを問いません。
選択肢2は正しい。
選択肢3は誤り。宅地建物の租税公課の負担に関する定めがあるときはその内容を37条書面に記載しなければなりません。
選択肢4は誤り。法第35条に規定する書面(重要事項説明書)に記名押印した宅地建物取引をして37条書面(契約書)に記名押印させなければならないとする規定はなく、別々の宅建士が記名押印できます。
解答のコツと考え方を見ていきましょう。
選択肢1について。損害賠償の額は、万が一のトラブルがあったときの落としどころとして定めておくもので重要度が高いです。これを曖昧にしておくと後々訴訟沙汰になることも考えられ、面倒が増えてしまいます。
それほど重要なものなのに売買代金の2割を超えない額だからといって37条書面に記載しないというのはおかしいのではないか? 37条書面(+民法)の学習が進んでいる方であればこの違和感に従って誤りと判断できます。
選択肢3も同様です。選択肢4は「35条書面(重要事項説明書)と37条書面(契約書)とは全く別物であり、記名押印する宅建士が同じでないといけない理由が無い」という観点から誤りと判断していきます。
報酬
報酬に関する問題例として令和元年度宅建試験の問32を取り上げます。
宅地建物取引業者A(消費税課税事業者)が受け取ることのできる報酬額に関する次の記述のうち、宅地建物取引業法の規定によれば、誤っているものはどれか。なお、この問において報酬額に含まれる消費税相当額は税率8%で計算するものとする。
- 宅地(代金200万円。消費税等相当額を含まない。)の売買の代理について、通常の売買の代理と比較して現地調査等の費用が8万円(消費税等相当額を含まない。)多く要した場合、売主Bと合意していた場合には、AはBから302,400円を上限として報酬を受領することができる。
- 事務所(1か月の借賃108万円。消費税等相当額を含む。)の貸借の媒介について、Aは依頼者の双方から合計で108万円を上限として報酬を受領することができる。
- 既存住宅の売買の媒介について、Aが売主Cに対して建物状況調査を実施する者をあっせんした場合、AはCから報酬とは別にあっせんに係る料金を受領することはできない。
- 宅地(代金200万円。消費税等相当額を含まない。)の売買の媒介について、通常の売買の媒介と比較して現地調査等の費用を多く要しない場合でも、売主Dと合意していた場合には、AはDから194,400円を報酬として受領することができる。
選択肢ごとに解説します。
選択肢1は正しい。代金200万円の宅地の売買を代理した場合、依頼者の一方から受領できる報酬の限度額は代金の5%の2倍です(20万円)。
ただし設例の場合はいわゆる空き家等の特例に該当していることから売主の合意のもと現地調査費用分を上乗せできます(8万円)。合計28万円に対し消費税8%を加算すると302,400円が報酬額の上限となります。
選択肢2は正しい。借賃100万円(税別)の建物の賃借を媒介した場合、受領できる報酬の限度額は借賃の1ヶ月分です。報酬にかかる消費税8%を加算すると108万円が報酬額の上限となります。
選択肢3は正しい。報酬とは別に受領できる料金は「依頼主の依頼によって行う広告料金」などごく一部の例外に限られます。建物状況調査者のあっせん料金はその例外に該当しません。
選択肢4は誤り。いわゆる空き家等の特例によって現地調査等の費用を報酬額に上乗せできるのは実際に現地調査等の費用が発生していた場合に限られます。
解答のコツと考え方を見ていきましょう。
選択肢1と2は報酬額の簡単な公式が頭に入っていればサクッと計算できます。公式を覚えておけば正誤判断は簡単なのでサービス問題だと思うようにしましょう。
選択肢3は報酬とは別に例外的に受領できる料金がどのようなものかを覚えていないと正誤判断ができません。判断ができないときは飛ばして次の選択肢を検討します。
選択肢4については「実際には費用が多くかからないのに、費用がかかるかのように請求していいのか?それで本当に消費者を守れるのか?」という違和感を持てれば誤りだと判断できます。
宅建業法科目の解答のコツ
ここまで確認したように、宅建業法科目の解答のコツは選択肢を読んで得られた違和感を見逃さないことです。そして違和感に基づいて「本当にその選択肢の通りだったら何かおかしな結果になるのではないか?」と推測を進めることが正解するための大切な能力になってきます。
もちろん問題文の中にあるひっかかりを見つけたり、そこから推測を深めたりする能力のベースにはテキスト読んで得られる基礎知識が不可欠です。なのでまずはある程度の知識をインプットしましょう。
そのあと何度も過去問を解いていくことでひっかかりに気づきやすくなりますし、推測する力も伸ばすことができます。
この記事のまとめ
今回は宅建試験の宅建業法科目にどんな問題が出るのかを確認し、解答のコツについてお伝えしました。この記事の要点を復習しましょう。
宅建業法科目の出題範囲は次の通りです。
- 用語の定義
- 免許制度
- 宅地建物取引士制度
- 営業保証金
- 保証協会制度
- 媒介契約等の規制
- 重要事項の説明
- 37条書面(契約書)
- 8種制限
- 報酬
- 業務上の規制
- 監督・罰則等
- 住宅瑕疵担保履行法
宅建業法科目の解答のコツは選択肢の違和感に気づくこと・そこから推測を深めていくことで正誤を判断することであると説明しました。基礎知識のインプットとアウトプットを繰り返し、少しでも多く違和感に気づけるよう感覚を研ぎ澄ませていきましょう。
以上、参考になれば嬉しいです。
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次回は権利関係科目の試験範囲と問題例を取り上げます。次のブログカードをタップすると移動できます。